西洋美術史課題Ⅰの途中。 ― 2014/05/24 15:47
明日は、図書館から借りた西洋美術史の資料の二回目の返却日。つまり4週間借りっ放しにしているということ。本が重いので見比べるのも大変だったが、ともかくまとめた。文字数は、本論のみで3340字。これに、序論と結論をつけて、2200字のレポートにまとめる。本論は5章に分けざるを得ないが、単なる箇条書きにならないようにしなければならない。参考までに、リライトしていない全文を載せる。
タイトルは「古代西洋美術の人体表現とその時代」
1)エジプト美術「メンカウラー王と二女神立像」
上エジプトの王冠と腰布を身につけ、右に牡牛の女神ハトホル、左に土俗信仰の女神を左に従えている古王国第4王朝のメンカウラー王立像である。身体の中心線に対してほぼ左右対称に配置された各部や、両脇に腕をつけて大きく左足を踏み出した様式的な姿勢は、いかにもエジプト彫刻らしい。女神たちは肌にピタリとまといつく薄布によって女性らしいボデイシェイプが表現され、逞しい肩幅の王との対比が強調されている。王の肖像ではあるが、写実性を抑えた表現と幾何学的な肉体構成でファラオの権威と神性を表現されている。像全体の完成度は高いが、王の左右の腕を掴んでいる女神たちの手の甲が小さい上、腕も異常に長くバランスが悪い。
ナイル川流域で興ったエジプト文明(BC4500~BC30)は肥沃な大地を背景に発展、初期王朝期にはエジプト美術の原型が誕生したが、3000年に及ぶ歴史にもかかわらず、その様式はあまり変化せず一貫している。ナイル川の氾濫と豊かな収穫の繰り返しから復活の観念が生まれ、死者の復活を信じてミイラが作られた。加えて、ミイラが破損しても永遠の生命を宿す彫像が安置されたが、そこには墓主に似せるリアリズムが求められた。これら来世信仰思想から発達したエジプト美術には2つの特徴がある。ひとつはピラミッドやグリッドシステムによる人体表現に代表される「幾何学性」、抽象形は永遠性を表すとされた。もうひとつは「自然観察」である。多くの作品でこの二つが共存し、永遠性と写実性が融合した独特の表現となっているが、基本的には正面性を重視した象徴主義的美術である。グリッドシステムによる人体表現は、その後の古代ギリシャにも伝搬してゆく。
2)メソポタミア美術「噴水の壷を持つグデア」
他のメソポタミア美術とは異質の雰囲気を持つグデア像である。都市国家ラガシュの支配者グデアは、神への感謝の印として自らの像を刻んで数多く奉納したため、様々なグデア像が残されているが、この立像は、神から授けられた権力を象徴する聖水の所有者として描写されている。右肩を出したドレープ状の衣服を身につけ、子羊の皮と見られる分厚い帽子を被っている。抱いた壺から水がほとばしり出てその流れに魚が泳いでいる。様式化された身体と顔立ちは、肩の筋肉のリアリズムと対照的である。見開いた目、つながった眉、ポーズなどの造形的特徴は、シュメールの初期王朝期に数多く見られる礼拝者像と特徴を共にする。
メソポタミア美術は、現在のイラクを流れるティグリス河とユーフラテス河の流域に興った世界最古のメソポタミア文明から生まれた。統一王朝が支配していたエジプトとは異なり、この地域を支配したさまざまな民族によって支えられた美術である。代表的なものがBC4000頃から繁栄する現世利益的な宗教色の強いシュメール美術、BC9世紀に急速に拡大し壮大な規模の叙述的浮彫様式を確立させたアッシリア美術、BC5世紀頃から顕われメソポタミアやエジプトなど各地の美術を統合した美術様式を確立したペルシア美術などである。表面的な様式や図像は共通部分が多いが、実際には人種も言語も異なるさまざまな民族によって5000年に渡って作り受け継がれたものであり、メソポタミア美術の最大の特徴は、この統一的な伝統様式の持続性にあるといってよい。
3)エーゲ美術「蛇を持つ女神」
王を神として崇拝することが無く神殿を建てなかったクレタ文明からは、モニュメンタルな大彫刻は生まれなかった。蛇の持つ女神は、若い女性を表した小立像で巫女ともミノアの女神とも考えられている。両手でベビをつかみ被った帽子の上に猫のような小動物を乗せている。ウエストが極端にくびれたドレスには、階段状のドレーパリーが見られ丈が長く大きく広がる。胸の部分は大きく開き乳房が露になっている。この像の服装は、ミノス宮廷の典型的なファッションであったと考えられるが、輪郭線の優雅さと動作の柔らかさの点で、クノッソス宮殿の壁画と同様のおおらかで動的な特徴を有している。
エーゲ美術は、主にエーゲ海周辺地帯で栄えた青銅器文明から生まれた美術の総称である。キュクラデス諸島、ギリシャ本土の東部と南部,小アジアの西海岸からクレタ島やキプロス島を含み,この美術は単一ではなく,また中心も範囲も変動するいくつかの美術からなるが,大きく3つに区別することができる。抽象化した人物像が特徴的なBC3000年頃に繁栄したキュクラデス美術、BC1700年頃に最盛期を迎え海洋文化独特の軽妙で解放的な表現が特徴のクレタ美術、そして、ギリシャ本土でBC1600年頃から隆盛する、尚武的で抽象化・図式化の傾向があるミュケナイ美術である。地域が重なることからギリシャ美術に含むこともあるが,ギリシャ美術の前段階でも先駆でもなく,独自の性格をもつ。
4)ギリシャ美術「ドリュフォロス(槍を担ぐ人)」
英雄アキレスを現した裸体の青年像。彫刻家ポリュクレイトスが、この立像で具現化した人体の均整に関する理論的な表現方法は「カノン」(尺度あるいは規範)と称されるが、この像の重要な特徴はコントラポストと呼ばれる片足重心の立ちポーズである。鋭角的に曲げた左手で槍を担ぎ、左手はゆったりと垂らしている。体重をかけた右脚に対して左脚はリラックスして後方に遊んでいる。腰は右あがりに肩は左上がりに傾いている。全身は緩やかなS字曲線を描き、緩やかに歩いている印象が生じ、緊張と弛緩が調和した理想的な人体表現となっている。エジプト美術の影響を感じさせるアルカイック期の硬直した姿の立像とは明らかな違いがある。
ギリシャ美術は、前11世紀頃からの幾何学文様式期に始まり、前8世紀末からのアルカイック期、前5世紀末からのクラシック期、そして前4世紀中頃からBC31年までのヘレニズム期と歴史が長く、その中で多様な変化をとげながら発展し、紀元前後からのローマ美術へ引き継がれていく。幾何学様式期には見るべき彫刻は無く、壺などに描かれた人物は図形的に抽象化されていた。アルカイック期になると、大きな彫像が制作されるようになるが、エジプト美術の影響を残す正面向きで硬直した様式的表現にとどまり、その生命感はアルカイック・スマイルと称される微笑みで表現された。しかし、クラシック期に入ると、アルカイック期の像とはまったく異なった生命感を彫像にもたらした。カノンという造形理論に従った調和と均衡を持つ肉体表現と、片足重心のポーズがもたらす動と静の力関係「コントラポスト」の概念が生まれ、それ以後の西洋美術における人体表現の規範となった。さらにヘレニズム期になると、美術は大衆化し、より現実的な人間の感情を表すものとして、身体のねじりなど官能性や優美さで感情あふれる表現となった。
5)エトルリア・ローマ美術「プリマ・ポルタのアウグストゥス像」
初代ローマ皇帝アウグストゥスの立像。ドリュフォロスを模して、ギリシャ・クラシックの伝統を受け継ぎながら、平和の象徴で飾られた鎧を身につけるなどローマ的な価値観を付け加えている。若者として表した容貌はギリシャ風に理想化され、伸ばした右手は左足の動きと連動して自然な姿勢を見せている。素足にすることで神性を表現、ローマ皇帝としての理念を伝えるプロパカンダ的芸術にもなっている。死後、皇帝を神格化するという伝統がここからはじまった。
前800年頃からイタリア中部に発達したエトルリア文明は、初期には東地中海やエジプトの影響、前600年頃からは交流が盛んだったギリシャの影響を受けながら、現世的で陽気な独自の美術を創り上げる。前7世紀のローマはエトルリア人の王に支配されていたが、前1世紀初めには逆にローマに併合されてしまう。このようにローマはエトルリアから多くの影響を受け、それがローマ美術の基礎的な役割を果たすことになる。その後、ローマが征服したヘレニズム諸都市から大量のギリシャの美術品がローマ社会に持ち込まれ、多くのコピー彫刻が作られるなどギリシャ美術を模倣・継承、その結果、ローマ美術の写実的な肖像の伝統が確立される。しかし帝政末期になると写実的な表現から、主要人物を強調して大きく表すなどの表現主義的な表現へと変化してゆく。
1)エジプト美術
題名:「メンカウラー王と二女神立像」
制作年代:古王国第4王朝(前2570年頃)
出土:ギザ・メンカウラー王の河岸神殿
素材:灰緑色結晶片岩
高さ:95cm
所蔵美術館:カイロ・エジプト考古学博物館
2)メソポタミア美術
題名:「噴水の壷を持つグデア」
制作年代:紀元前2150年頃(新シュメール時代)
出土:メソポタミア南部
素材:閃緑岩
高さ:62cm
所蔵美術館:パリ・ルーヴル美術館
3)エーゲ美術
題名:「蛇を持つ女神」
制作年代:紀元前1600年頃
出土:クノッソス宮殿
素材:ファイアンス焼
高さ:33.3cm
所蔵美術館:クレタ・ヘラクリオン考古博物館
4)ギリシャ美術
題名:「ドリュフォロス(槍を担ぐ人)」
出土:
作者:ポリュクレイトス
制作年代:紀元前450年頃
素材:大理石(ローマンコピー)
高さ:
所蔵美術館:ナポリ国立考古学美術館
5)エトルリアとローマ美術
題名:「プリマ・ポルタのアウグストゥス像」
出土:ローマ北部・プリマ・ポルタ
制作年代:紀元前20年頃
素材:大理石
高さ:204cm
所蔵美術館:ローマ・バチカン美術館
参考文献
1) 世界美術史 メアリー・ホリングスワース著 木島修介監訳 中央公論社1994
2)美術 絵画・彫刻・建築の歴史(上巻) フレデリック・ハート著 中山紀夫他訳
明治書院1982
3)ルーブル美術館Ⅰ(古代エジプト/オリエント) 高橋秀爾監修 日本放送協会1985
4)ルーブル美術館Ⅱ(古代ギリシャ/ローマ) 高橋秀爾監修 日本放送協会1985
5)西洋美術史入門 早川優子著 視覚デザイン研究所2012
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